自閉症は対人コミュニケーションの障害や著しい興味の限定に特徴づけられる広汎性発達障害です。近年では行動学的な検討だけでなく、脳画像を用いた研究も増えてきていますが、まだまだ解明されていないことがたくさん残されています。今回ご紹介する研究は、著者が以前に健常者を対象として行った実験*1を発展させて、自閉症のコミュニケーション障害のメカニズムの一端を明らかにしたものです。こういった研究は基礎研究と臨床研究の橋渡しの役目を果たすように思えて、個人的は増えていってほしいなと思うタイプの研究でした。
人は他人に自分が見られていると知っている時は、より向社会的に振る舞うことが知られている。他人に見られている時に観察されるこの効果は、自分の社会的な評価を上げたいという動機づけによって起こるものと考えられている。我々はこの効果が、自閉症者では選択的に障害されているのではないかという仮説を検証した。実際に寄付をするかどうか選択する課題を行うと、健常コントロール群では、他人から見られていない場合よりも、他人から見られている場合の方が多く寄付をした。一方、高機能自閉症の人たちにおいては、他人から見られているかどうかの影響は観察されなかった。しかしながら、持続処理課題*2(continuous performance task)では両方のグループにおいて、他人から見られていない場合よりも、他人から見られている場合で成績の向上がみられた。これらの結果は、自閉症者が他人からどう思われているかを考慮する能力に欠けていることを示唆している。
*1興味のある方は、「Processing of the incentive for social approval in the ventral striatum during charitable donation」 (Izuma et al., 2010, Journal of Cognitive Neuroscience)も読んでみてください。
*2この課題では、様々なアルファベットが一つずつ200ミリ秒間呈示され、その文字が”X”であるかどうかを判断した。
Keise Izuma, Kenji Matsumoto, Colin F. Camerer, Ralph Adolphs
Insensitivity to social reputation in autism 2011
http://www.pnas.org/content/108/42/17302
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