共感の2つのシステムは,異なる神経基盤から成り立っている

 

 

 

一昔前に“KY”ということばが流行し,その後,“鈍感力”も必要と共感には,2つのシステムがあることはいわれていましたが,その2つが異なる神経基盤にて成立しているのかどうか,議論の余地がありました.病巣の重ね方などは脳機能画像の技術を使っていますが,その疑問を神経心理学で行われてきている二重解離(Teuber1955が唱えた原則:神経心理学入門より引用)にて証明したシンプルな研究デザインの研究を紹介します.

 

 

 

題名「共感の2つのシステム:下前頭回と腹内側前頭前野損傷における情動と認知の共感の二重解離」

 

 

 

要旨

 

近年,共感のシステムは,基本的な感情の伝播と認知的な推察力からなるシステムの2つのシステムが考えられている.本研究では,基本的な感情の伝播と認知的な推察力からなるシステムの神経基盤が解離しているという仮説を検証する.対象は,腹内側前頭前野損傷群と下前頭回損傷群と脳損傷対照群(前頭葉以外の損傷)と健常対照群に対して,情動再認課題(52枚の目の写真に2つの情動を表す単語が書いてあり,写真に適した単語を選択させる課題)と心の理論課題(2次誤信念課題:「Aさんがある物をしまって部屋を出て行く.Bさんは,Aさんが部屋にいない間にその物を別の場所に移す.しかし,Aさんは,陰でBさんがしていたことをこっそり見ているが,Bさんは,そのことを知らない.」対象者に「Bさんは,Aさんが考えていることに関して知っているかどうか」を判断させる.)結果,情動再認課題成績において下前頭回損傷群は,2つの対象群と比較して有意に低下していたが,腹内側前頭前野損傷群は対照群と差がなかった.一方,心の理論課題成績は,腹内側前頭前野損傷群が,他の3群と比較して明らかに低下していたが,下前頭回損傷群は2つの対照群と差が検出されなかった.病巣と課題成績の関係では,ブロードマン44野が感情の伝播と関連し,ブロードマン1110野と認知的な推察力と関連していた.

 

 

 

リハビリテーションにおいて対象者の行動異常を検討すると複数の要因が挙がってきます.その時に,二重解離の手法を応用できると整理されやすいかも知れません.

 

 

 

Two systems for empathy: a double dissociation between emotional and cognitive empathy in inferior frontal gyrus versus ventromedial prefrontal lesions.

 

Shamay-Tsoory SG, Aharon-Peretz J, Perry D.

 

Brain 2009132617-627

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18971202