もやもや病患者の認知機能障害の特徴は明らかにされていません。今回紹介する論文は標準化された神経心理学的検査を用いて、社会的に自立したもやもや病患者と社会的自立が困難なもやもや病患者についての認知機能を調査した研究です。
対象は神経放射線学的な観点から確認された成人もやもや病患者10名(男性3例、女性7例、平均年齢34.2歳)で、社会的自立群5例、社会的自立困難群5例の2群に分類した。神経心理学的評価としてWAIS-Ⅲ、WMS-RFAB、TMT-A・B、WCST、Go/No-Go task、No-Go/Go task、Apathy Scale、Theory of Mind (Eyes)を施行し、評価結果について、群間比較(t検定、マンホイットニーU検定)と判別分析を行った。統計解析にはJMP 10.0.2を使用し有意水準は全て5%未満とした。
自立群の平均年齢は自立困難群と比較して有意に高かったが(P<0.05)、罹患期間に有意差は無かった。WAIS-Ⅲの各IQ・群指数のスコアは全ての項目において自立困難群と比較して自立群で有意に高かった(P<0.01)。WMS-Rの言語性記憶、視覚性記憶では有意差を認めなかったが、一般的記憶(P<0.05)、注意/集中力(P<0.01)、遅延再生(P<0.05)で自立群が有意に高かった。TMT-B(P<0.05)とTheory of Mind(P<0.01)で有意に自立群の成績が良好であった。
判別分析ではWAIS-Ⅲの作動記憶(P<0.01)とTheory of Mind(P<0.05)が群間の判別に寄与する因子として抽出された。
先行研究では小児期のもやもや病発症例の知能の低下が証明されており、本研究における自立困難群の患者は小児期の発症であるため、それらの先行研究と一致した。自立群において、作業記憶のスコアは他項目と比較して低い傾向を示した。これは社会的自立に困難を呈さない成人もやもや病患者の特性を示唆するものと考える。血行力学的な障害により生じる脳血流量の低下もしくはニューロンの減少はWAIS-Ⅲの作動記憶の低下を引き起こす可能性がある。
自立困難群におけるWMS-R成績でSPECT所見で説明できない明らかな機能低下を示したことより、記憶機能が海馬などの側頭葉内側部領域だけでなく、広範囲の皮質下領域におけるニューロン結合と関連している可能性があり、この点は今後の検討課題である。
成人もやもや病患者でTMT-Bの成績が低下することが報告されており、本研究の自立困難群の結果はそれらの報告を支持する結果であった。Theory of mindは他者の精神状態を推論する能力であり、健常者や精神疾患を有する患者のニューロイメージング研究において、内側前頭前皮質、眼窩前頭皮質、扁桃体、側頭極領域、上側頭溝の賦活との関連が示されている。脳における慢性的な前方循環不全は前頭前皮質の内側や外側領域の機能不全引き起こし、本研究の自立困難群の結果でみられたようにTheory of mind(他者の精神状態を推論/察する能力)の障害を引き起こす可能性がある。
もやもや病患者の神経認知の機能不全についてのより強いエビデンスを得るため多施設による前向き研究が必要である。
Cognitive Function of Patients with Adult Moyamoya Disease
Yoshio Araki, MD, PhD, Yasushi Takagi, MD, PhD, Keita Ueda, MD, PhD, Shiho Ubukata, MHSc, Junko Ishida, OTR, Takeshi Funaki, MD,Takayuki Kikuchi,MD, PhD,Jun C. Takahashi, MD, PhD, Toshiya Murai, MD, PhD,and Susumu Miyamoto, MD, PhD
Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 23, No. 7 (August), 2014: pp 1789-1794
http://www.strokejournal.org/article/S1052-3057(14)00222-5/abstract
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