日常生活の行動上の無視の神経解剖学と心理学的検査との関連

 

 

 

右半球損傷見られる半側空間無視に関する研究です.机上の検査と日常生活上の行動障害との結果が一致しないことも多々あります.机上検査ができないリ重症例であれば起居動作から獲得から色々と苦労しますし,机上課題が改善しても着替えなどのセルフケアに汎化できないなど良くみかける高次脳機能障害ではありますが,介入方法が難しい症状の1つでもあります.今回,行動上の無視と机上検査上の無視の関係を神経解剖学的に調査した研究を紹介します.

 

 

 

要旨:空間無視の神経基盤としては,皮質(主に側頭頭頂接合部)と皮質下(主に上従束)が挙げられている.本研究の目的は,ADLにおける行動上の無視(N-ADLs)の神経解剖学的解明と無視のコンポ-ネント(身体周辺への無視:peripersonal neglectと身体への無視:personal neglect)と病態失認(anosognosia)の神経解剖学と心理学的検査との関連を明らかにすることである.脳卒中発症1か月以内の45名の無視がある対象者の行動上の無視の問題(N-ADLs)は,the Catherine Bergrgo ScaleCBS)にて評価をし,無視のコンポーネントの分類には,身体周辺への無視の検出に「線分抹消試験」と「対象抹消試験(the bell test)」を使用し,身体への無視の検出には,「健側で患側手までリーチする課題」と「主観的な正中を評価するsubjective straight-ahead (SSA)」を使用した.「身体周辺への無視」,「身体への無視」とも2つの検査のうち1つがカットオフ以下であったとき陽性とした.脳損傷領域の同定にVoxel-based lesion-symptom mappingを使用した.結果,“行動上の無視の問題”は,上側頭回の後方から側頭頭頂接合部,上従束を含む皮質下への広がりの損傷領域と関連を示した.“身体周辺への無視”は,上側頭回と下頭頂回の皮質領域から皮質下の損傷領域と関連を示した.“身体への無視”は,主に体性感覚皮質の損傷領域と関連しており,上側頭回損傷は重要でなかった.病態失認は,下側頭回と上側頭回の後方領域の損傷と関連していた.結論として“行動上の無視の問題”は,上側頭回と上従束損傷が主要な原因領域であること解明された.“行動上の無視の問題”は,“身体への無視”や“病態否認”よりも“身体周辺への無視”と関連していることも関連領域の同一性から明らかとなった.

 

 

 

 

 

    the Catherine Bergego ScaleCBS):生活障害を観察して評価するスケールであり,「左側の整容を忘れる」,「移動時の左側の衝突」,「左側の身の回りのものが探せない」などの項目に4件法で回答する.評価者の観察結果と対象者の自己評価の差異から病態失認を同定できる.

 

    健側で患側手までリーチする課題:開眼または閉眼で患側の身体の一部へリーチする課題で“躊躇することなく到達できる:0”から“目的に対して運動が見られない:3”でスコア化する.

 

    subjective straight-ahead (SSA):暗闇の中で光るロッドを体幹の正中に配置するように教示する.6回実施した客観的な体幹の正中とのずれの平均値を測定値とする.

 

 

 

 

 

Anatomical and psychometric relationships of behavioral neglect in daily living.

 

Rousseaux M, Allart E, Bernati T, Saj A.

 

Neuropsychologia. 2015 Apr;70:64-70.

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25676676