相貌失認は、先天性(発達性)と脳損傷等により生じる後天性があります。後天性は非常に稀であるため、臨床現場ではなかなか経験することはないと思います。一方、先天性の相貌失認は、本人、周囲が気づいていないだけで意外と身近にいることが最近話題となっています。今回ご紹介するのは先天性の相貌失認患者らの顔認知に対する訓練で効果が得られたという研究論文です。※今回はあくまで先天性の相貌失認患者を対象としており、後天的な相貌失認患者に対しては検証が行われていません。
要旨
これまで相貌失認は治療困難な障害と考えられてきた。しかし、認知訓練を用いた近年の症例報告では発達性の相貌失認患者で顔認知の能力を高める可能性があることが示されてきた。そこでこの研究の目標は、過去に著者らが考案した訓練方法が発達性の相貌失認患者群に効果的かどうか確かめることであった。この研究では24名の発達性相貌失認患者に対して、顔の全体処理*を標的とする3週間の継続的な顔に関連した訓練プログラム*を実施した。24名のうち12名の発達性相貌失認患者は訓練プログラムの前後を評価され、残りの12名は待機期間 (同時期に訓練プログラムを実施しない)の前後を評価されたのち訓練を行い、その後評価された。評価指標は既存の評価バッテリーの中に含まれている正面顔の識別、視点が変化した顔の識別、顔の全体処理、実生活での改善を定量化するための5日間の日記とした。待機期間があった群に比べ、訓練プログラムを実施した群では中等度であったが正面顔の識別課題で有意な訓練効果を認めた。さらにより難易度の高い訓練プログラムまで実施できた患者群では正面顔の識別課題で最も強い効果を認め、顔の全体処理課題では訓練を行っていない健常対照群と同様の成績にまで改善した。また患者の主観的な評価となる日記での発達性相貌失認患者の日々の顔認知能力と潜在的なバイアスを特徴づける取り組みにおいても、中等度であれ一貫した改善効果を認めた。
*顔の全体処理:目鼻口といったそれぞれの部分の特徴ではなく、それぞれの配置で見るという処理方略。
*訓練プログラム:眉の位置が高く、口の位置が低い顔刺激 (カテゴリー1)とその逆の条件の顔刺激 (カテゴリー2)が呈示され、どちらのカテゴリーか早く正確に答える。繰り返し施行され、その成績によって訓練の難易度が上がる。難易度は高くなるにつれ、サイズが異なる顔刺激が含まれるようになる。
Holistic face training enhances face processing in developmental prosopagnosia
DeGutis J, Cohan S, Nakayama K. Brain. 2014.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24691394
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