過誤再生は,腹内側前頭前皮質損傷によって減少する:スキーマメモリ(概要記憶)の神経基盤解明につながる

 

 

前交通動脈動脈瘤破裂によるくも膜下出血後の認知機能障害として,特有な記憶障害や作話が見られることを経験され,リハビリテーションを実施に苦慮されると思います.今回紹介する論文は,前交通動脈動脈瘤破裂によって損傷する腹内側前頭前皮質の損傷が,過誤再生を減少させるという一見臨床と矛盾する結果の研究を報告します.しかし,読み進めていくと過誤再生の減少が関連した認知障害と納得できるかと思います.

 

 

 

要旨:概念記憶や前に経験した出来事から派生される文脈的知識は,関連情報の学習速度や記憶の貯蔵の促進するため覚えることにとって有益である.しかしながら,概念記憶は,過誤再生の産出を促進することもある.Roediger and McDermottが1995年に報告した“The Deese-Roediger-McDermott (DRM) Paradigm: DMRパラダイム*”の過誤再生効果は,このスキーマメモリの実証のひとつといえる.我々は,腹内側前頭前皮質のような多彩な選択による複雑な意思決定処理に関連する前頭葉の領域が,概念知識による記憶の処理とも関連するという仮説を立案した.この仮説を検証するためにDMRパラダイムを用いた課題の過誤記憶におけるヒトの腹内側前頭前皮質の役割を調査した.腹内側前頭前皮質損傷者群(7名)と健常対照者群(14名)が,特定のアイテムによる共通項を含んでいる単語リストを学習,再生と再認のテストを実施した.結果,健常対象者群は,特定のアイテムによる共通項を含んでいる過誤再生や再認が予想通り高頻度でみられた.一方,腹内側前頭前皮質損傷者群では,明らかに特定のアイテムによる貫入がみられなく過誤再生の減少を示し,過誤再認も減少傾向を示した.我々の発見は,腹内側前頭前皮質が,概念的に相同な記憶の影響を増強させることを示唆しており,この寄与が,意思決定における腹内側前頭前皮質の役割と関連しているのかもしれない.

 

 

 

*DMRパラダイム:例えば,「寒い」,「吹雪」,「冬」…などを学習させると学習していない「雪」など共通した概要に分類される単語を学習したと誤って判断しやすくなること.

 

 

 

False Recall Is Reduced by Damage to the Ventromedial Prefrontal Cortex: Implications for Understanding the Neural Correlates of Schematic Memory

 

David E. Samuel H. Jones, Melissa C. Duff, and Daniel Tranel

 

J Neurosci. 2014 May 28; 34(22): 7677–7682.

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4035527/