集団の合意形成に関わる神経基盤-計算論モデルによるアプローチ-

人の脳の研究というと,皆様方には神経心理学や臨床神経学といった分野がなじみ深いかもしれません.こういった学問分野では,脳損傷患者を対象とした研究から特定の脳領域がどのような役割を果たしているか検討を行うことが一般的です.一方で,functional MRIMEGに代表されるように,健常者の実験課題遂行中の脳活動から,脳の機能を明らかにしようとする研究(賦活研究)も盛んに行われています.

 

今回ご紹介する研究は,functional MRIと計算論モデルを併用した研究です(計算論モデルを使った研究の特徴は,ざっくりいうと人の行動や脳活動のパターンを数式で表そうと試みる点です).今までの脳機能画像研究は,実験協力者に画像などを呈示し,何らかの基準によって判断をしてもらうケースがほとんどで,誰かとやり取りをしている際の脳活動を測定するということはあまりされてきませんでした.

 

この研究では,なんと一度に6人!の実験参加者を募って研究を行っています.具体的には,1人はMRI撮像中に左右に呈示された2つの商品のうちどちらか好きな方を選択する課題を行い,それと同時刻に残りの5人もリアルタイムで同様の課題を行うというものです(なお,この5人のMRI撮像はしていません).

 

この研究の非常に面白い点は,計6人で合意が形成されれば(つまり,全員が同じ商品を選択すれば),選択した商品を実際にもらえるという点です.逆に言うと,全員での合意が形成されなければ(つまり,全員の選択が一致しなければ)その商品をもらうことはできません(細かな実験の設定については省略しますが,この研究では他の実験参加者がどちらを選択したか知ることができ,同じ商品のペアが数回出てきます.そのため,他の参加者の好みに合わせて各々の実験参加者が商品のペアに対する選択を1回目と2回目で変えるということが可能となっています).

 

結果については,筆頭著者の鈴木真介さんが執筆した非常にわかりやすい日本語のレビューがありますので,そちらをお読みになっていただければと思います.

http://first.lifesciencedb.jp/archives/10005

 

元論文

Shinsuke Suzuki, Ryo Adachi, Peter Bossaerts, John P. O’Doherty

Neural mechanisms underlying human consensus decision-making.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25864634