社会的評価を受けた際の腹内側前頭前野の活動の性差

 

 

他者から褒められたり貶されたりすると少なからず嬉しくなったり嫌な気持になったりすると思います.リハビリテーション場面でもセラピストがどのような声掛けをするかによって,対象者のモチベーションや機能回復の程度が変化するかもしれません.以前,「"褒められる""上手"になる」という論文を紹介しましたが,今回ご紹介する論文では,他者から褒められたり貶されたりした際の被験者の反応に性差が存在するか,functional MRIを用いて調べています.このような基礎研究のエビデンスが蓄積されていって,将来的には実際の臨床場面で,対象者を褒めることが治療効果に好影響を及ぼすか,どのように褒める(フィードバックを与える)のが良いのか検討をしていけたらと思います.

 

 

 

要旨

 

これまでの研究で,社会的評価は人の行動に大きな影響を与えることが知られている.社会的評価により生起される主観的な価値は腹内側前頭前野と呼ばれる領域で処理されていると考えられている.しかしながら,他者から社会的評価を受ける際に,腹内側前頭前野がどのようにその主観的な価値(ここちよさ)を処理しているかについては未だ不明な点が多い.我々は同性もしくは異性からの社会的評価を受けた際に,男性被験者と女性被験者それぞれの腹内側前頭前野がどのようにその主観的な価値(ここちよさ)を処理しているか検討した.行動データの解析から,ポジティブな評価はネガティブな評価よりもより心地よいと判断されることが明らかとなった.興味深いことに,男性では,同性からの社会的評価よりも異性からの社会的評価の方が影響が大きい一方で,女性では,異性からの社会的評価よりも同性からの社会的評価の方が影響が大きいことが明らかになった.腹内側前頭前野の活動は主観的な価値(ここちよさ)の上昇に伴って増加した.また,この腹内側前頭前野の活動パターンは,行動レベルで確認された性差のパターンと一致した.これらの結果は,腹内側前頭前野がポジティブな社会的評価の処理に関わっており,価値情報に基づいた意思決定における最終経路である可能性を示唆している.

 

 

 

 

 

元論文

 

Iori Kawasaki, Ayahito Ito, Toshikatsu Fujii, Aya Ueno, Kazuki Yoshida, Shinya Sakai,

 

Shunji Mugikura, Shoki Takahashi, Etsuro Mori

 

Differential activation of the ventromedial prefrontal cortex between male and female givers of

 

social reputation

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26235682

 

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コメント: 2
  • #1

    松コウイチロウ (水曜日, 08 8月 2018 08:47)

    分かりやすい解説です。ポジティブな社会評価と報酬系脳との関係を教えてください。

  • #2

    松幸一郎 (月曜日, 01 7月 2019 10:17)

    社会的評価、別の言葉で言えば褒めという報酬が心地よいことはよく解ります。子供でも大人でも、褒めがあれば自己肯定感、誇りは上向きます。が、日本社会の上司は褒め方が下手な人があまりにも多いです。セクハラ、パワハラによって他者や部下を貶めるという上司に出遭った人は、その瞬間から不幸になります。これから経営に携わる人は脳の勉強をして欲しい。人間理解とは脳の理解なのですから。