脳卒中後の認知機能障害に対するMMSEはどの程度予測に有効であるか

Mini-Mental State ExaminationMMSE)は認知機能を簡便に測定できる世界中で最も広く用いられている検査です.MMSEから得られる情報をどのように解釈し,また有効利用するかについての示唆は脳卒中の臨床において大変に貴重なものであると思います.今回は①脳卒中急性期においてMMSEが軽度,中等度の認知機能障害を検出するのに有効な評価であるのか,また②その後の認知機能の予測に貢献する評価であるのかを他の認知ドメインを抽出する神経心理学的検査を用いて検証した研究を紹介します.

 

 

対象:40歳以上の初発の脳卒中患者140例(MMSE score >15

 

   更にMMSE2424MMSE27MMSE273つにグループ分けがなされた.

 

方法:発症後1,6,12,24ヵ月に以下の神経心理学的検査を受けた .検査結果が年齢平均スコアを10%以上下回った場合は認知ドメインの障害ありと定義された.

 

神経心理学的検査と認知ドメイン     *( )内は認知ドメイン

 

®  MMSE

 

®  CAMCOG(見当識,注意,行為,reasoning,言語)

 

®  Concept Shifting Test(情報処理スピード)

 

®  Stroop Colour Word Test(情報処理スピード,executive function

 

®  Auditory Verbal Learning test(記憶)

 

®  Groninger Intelligence Test (計算,視空間)

 

Follow-up時の認知機能の変化は障害された認知ドメインの数で「改善」,もしくは「悪化」と定義された.①については初期評価のMMSE score ― フォローアップのMMSE scoreの相関,初期評価のMMSE score ― 障害された認知ドメインの数の相関,②については初期評価のMMSE ―Follow-up時のMMSE,初期評価のMMSE ―Follow-up時の認知機能(神経心理学的検査の成績)の回帰分析が用いられ,更に副次的にMMSEcut-off scoreを確認するためReceiver Operating Characteristics (ROC) 曲線が用いられた.

 

結果:12ヵ月後,24ヵ月後共に初期のMMSE24のグループは他のグループよりfollow-up時に「悪化」の比率が有意に高くなった.MMSE242グループは有意差なし.初期評価時 MMSEfollow-up時の「悪化」,「改善」の比率に相関あり (6ヵ月:r=0.7712ヵ月:r=0.7624ヵ月:r=0.77).

 

MMSE24のグループにおいて4つ以上の認知ドメインの障害がある場合はfollow-up時に障害された認知ドメインの数が減少した.1つ以下の認知ドメインの障害がある場合は, MMSE24のグループは「悪化」の割合が増加した(Table 4).ROC曲線では感度(0.710.83),特異度(0.720.96)で障害された認知ドメインの数が少ない場合(認知障害が軽度である)ほど感度,特異度が共に低かった(Fig. 1).follow-up時の障害された認知ドメインの数を従属変数としたロジスティック回帰分析では有意な値を示した(p<0.05R2, オッズ比については記載なし).初期評価時およびフォローアップ時の障害された認知ドメインの数を予測に有効である.認知機能障害の抽出には優れているが,相対的に軽度であればあるほど鋭敏性は低くなる.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論:急性期脳卒中のMMSE scoreは初期評価時およびフォローアップ時の障害された認知ドメインの数を予測に有効であるが,相対的に認知機能障害が軽度であればあるほどその鋭敏性は低くなる.

 

初期評価時のMMSE low scoreの場合は認知機能が悪化する傾向があり,比較的MMSE high scoreの場合が障害された認知ドメインの数が少ないほど認知機能が悪化する傾向あり.

 

 

 

コメント

 

認知機能の予後予測は臨床場面において非常に悩ましい問題となることがあります.簡便かつ広く普及しているMMSEから大まかにでも予後の傾向を把握できれば日々の臨床に有意義な情報となるのではないでしょうか.また認知機能障害が軽度であればあるほどその鋭敏性が低いことからもMMSEのみで認知機能を把握するのは困難であり,特に就学,就業を目的に置く対象者には各認知ドメインにおいて更に難易度の高い検査を実施する必要があること,認知ドメイン初期評価時のMMSE low scoreの場合は認知機能が悪化する傾向があることからは退院後のフォローアップには十分な配慮が必要であることも示唆されたように思いました.

 

 

 

 

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20361295

 

Bour A, Rasquin S, Boreas A, Limburg M, Verhey F. How predictive is the MMSE for cognitive performance after stroke? Journal of Neurology. 2010; 257: 630-637.